長かった東京生活も終り家業を継ぐために帰郷した僕は、現場の仕事で忙しい毎日だった。目の前の仕事を覚えることに必死で余裕もなかった。なにせ、我が家の事業は今にも潰れんばかりの業績だったし。中2の夏から吸っていたタバコも止めていた。ましてや再びバイクに乗るなんて思いもしなかった。そして小さな田舎町ではバイクを見かけることもそれほどなかった。
僕の仕事は朝が早い。息が白くなる冬を迎えた頃には、ようやく仕事の手順も覚え、それなりに余裕も出てきた。そんなある朝、職場前の国道を掃除していたときの事。まだ通りの少ない道を2台のバイクが排気音を残して僕の前を過ぎ去った。
完全防寒仕様でザックを積んだライダー達。多分、阿蘇へ行くのだろう。ワインディングを存分に楽しんだら、煙草を一服。昼飯を食ってもう一走り。冷えた身体を温泉で伸ばしたら、ゆっくりと家路に着く。寒さはツーリングのスパイスだ。冬にこそバイク乗りの醍醐味がある。
そんな彼らの一日を想像したら、居ても立ってもいられなくなった。そして僕は「ホンダSTEED400」を手に入れ、再びバイク乗りに戻った。もちろん、煙草も吸い始めたのだった。
Keep On Riding !
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